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犯罪の種類も多い。殺人、窃盗、恐喝、暴行、麻薬
常習者、売人数限りない。塀の中ではいつとなく、
それぞれの犯罪名が分かっている。居室内で、耳
にしたことや、作業所で自然に耳に入ってくる。
不思議なことには雑居房で殺人者と共にえ起きさ
せられていることだ。相手が殺人者と分かったとた
んかなり緊張するが、それでも出来るだけ自然体
で接するようにしているが、どこから見ても相手が
殺人者と分かるような言動もない。内心、本当に
殺人を犯したのだろうかーと思わせるような人も
いた。事実、部屋に入って来た本で叩こうとした
時、その殺人者は「虫にも一寸の魂がある」とその
虫を助けたのだ。前にも書いたが、風呂でもそうだ。
60人余りの入れ墨入りの犯罪者が、浴槽をぐるっ
と取り巻く中に、入れ墨なしの私を入浴させる場所
を確保してくれるなどの親切さが窺えた。犯罪者
集団は普通人だったのである。

塀の中なんて好んで居る場所ではない。病気しても
簡単には薬は出ない。面倒な規律だけが厳しく、自由
が全くない。あるのは、塀の中の態度次第でバッチの
色が変わり、月に一回くらいのビデオ観賞会の出席が
二回に増える程度である。主食は黄ばみかかったご
飯?それに石みたいに固まった肉片か、たまにでる
ラーメンは麺は伸びて、スープは生ぬるい。とても、人
間扱いされていないような食事ばかりだ。ある看守が
いうに、ここにいたら糖尿病患者は完全に治るダイエ
ット食だとか。お米の味を感じるのは正月元日の外か
ら入る弁当のご飯だ。確かに米と感じるし、銀シャリ
と感じられる一年に一回のプレゼントなのである。
とにかく、塀の中は想像以上のきびしさがあるのだ。
こんなところに二度と来るところではないことは一度
経験すれば身に染みてわかる。
ところがである。こんなところに4,5回も志願して入
ってくる老人が多い。娑婆で生活できず小さな罪を
意識して犯して入ってくる。志願者には高齢者がほ
とんどで、刑期を終えて出てきても、仕事もできず
住まいすら危うくなる。こうした老人は塀の中こそ天
国なのである。社会の厳しさに翻弄され塀の中に逃
げ込むといった図式なのである。
政治の貧困が高齢化社会を直撃しているようだ。
リーマンショック以前の兆候があるーなどと、嘯いて
いるような余裕など日本の高齢化社会にはない。
日本の実態を見た福祉社会の確立を急がねばなら
ない。与野党の小競り合いに付き合っているひまなど
ないのだ。
圧巻は入浴だ。50人くらいで入る大風呂である。
風呂は細長い楕円形で、両手を湯面の外に出し
軽く万歳した格好で入る。垢をこすらない、人の
体を触らせないーというところから編み出された
姿勢なのであろう。しかも、石けんは使えるが、
シャワーは8秒間で洗い落とさなければならない。
ワンプッス8秒間だけ水が出る。最も、もう一度
押せば、さらに8秒間出るのだけど、それは許さ
れていない。万一、ツウプッシュするものなら、間
違いなく懲罰行きとなる。
圧巻といったのは、入浴は風呂の壁面を取りまく
ようにして入るが、壁面そのものがタトーの人列
で埋め尽くされる。
私は、なぜかその中心部に席が(場所)とられ、
色のない私の体が起点になる。この入浴風景は
毎回指定席のように繰り返される。
見方によれば、私が紅一点みたいだけど、タトー
人列の中の無色派は見られたものではない。
囚人の迫力は風呂場にあるかに感じられた。
塀の中には、想像もできない規則や光景がある
ものである。
危惧したことが起きた。作業道具の長針を
紛失したのである。場合によっては人でも
殺せるような道具だ。それこそ、班長の絶
体絶命の場面である。見つからなければ、
間違いなく班長が懲罰行きになる。
看守に紛失を報告すると、他から4人の
看守が集められた。
まず、囚人は素っ裸にさせられ、こまかく
調べられた。どこか、隠していないかとい
うことだ。この身体検査がおわると、全員
が広場に出されて、整列させられた。囚人
間のトラブルを耳にしなかったかーなど、
全責任を持つ班長が尋問された。そして
看守5人がかりで、作業台など細かく探し
た。それでも、見つからない。
次は、工場内の什器すべてを外に出し床
から、隅々まで調べた。それでも、長針は
出てこなかった。今度は、班長の私が懲罰
を言い渡されるときとなった。
まさにその時、囚人の一人がモップに絡ま
った長針を見つけ出したのである。その前後
関係はわからないが、間一髪で責任回避
できた。
作業の内容は、単純なものでビーズをアルミ製
の皿に入れて、手で回転させながら糸を通した
長針の針に通して、それをたくりながら1メートルに
なったら切り離す。その繰り返しの作業だった。
それを終日やるわけだから、段々慣れてきて1
メートルのビーズが繋がった意図の本数が日を
追って多くなってきた。特別、ノルマがあるわけ
ではないが、中には不器用の人がいて看守か
ら厳重注意を受ける人もいた。材料と、生産本
数は班長が集計して看守に報告していた。
看守、班長の目が鋭くさぼれる状況ではなかっ
た。班長は同じ囚人である。が、材料をそれぞ
れに与えるだけで、楽だろうと羨まれる存在で
あった。その中で、私は理髪係になった。経験
は全くないが、電気バリカンで坊主にするだけ
である。指名を受けた以上断るわけにいかな
い。中には、トラ刈にされたと不満を漏らす者
もいたが、看守から無視しろと言われ聞かな
い態で1年は続けた。私の理髪係指名は納得
できなかったが、要はあいっなら危険物である
バリカンを振り回すことはないと看守が判断し
たのだろう。1年半になったとき、看守に交代
を要請したが、聞き入れられず逆に班長に指
名された。班長は、材料提供と監視、出来高
の集計だが、作業から外れて楽ではあっても
責任がのしかかる。いい加減な作業をしてい
る者はいないかとか、扱う針などの機材が紛
失していないか。囚人間のトラブルはないか
など、看守の代理人みたいなことをしなければ
ならない。いうなら、囚人からすると看守に密
告するスパイ役である。一番嫌な仕事が指名
されてしまった。断れないだけに困惑した。
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