年に一回囚人の運動会がある。若い受刑者
だけが、走ったりいろんなイベント様の催し
をする。年配者は一部の人が紅白の玉入れ
をするだけである。
大声を出すことを禁じられているから、応援
は、ほとんど無言である。はたから見れば、
薄気味悪いう運動会に違いない。
では楽しみはとなると、一番は長時間運動場
に居られることだ。たまには、この運動場で運動
させられることがあるが、長くて30分が限度で
ある。運動会では、2時間は居れるのだ。
それと、なんていってもコーラとバナナの配給
がぜんいんにあることだ。娑婆ならたわいもな
いことかもしれないけど、塀の中ではコーラとか
バナナは見ることもできない。
売店はあるらしいが、自由に買えるわけではなく
居室に月一回ってくるメニュー紙に印をつけて
購入するだけ。もちろん、食べ物は一切なく歯
磨きなどの日曜雑貨を注文するだけである。
したがって、コーラやバナナはみんなが飛びつく
くらいの貴重品?なのである。
犯罪の種類も多い。殺人、窃盗、恐喝、暴行、麻薬
常習者、売人数限りない。塀の中ではいつとなく、
それぞれの犯罪名が分かっている。居室内で、耳
にしたことや、作業所で自然に耳に入ってくる。
不思議なことには雑居房で殺人者と共にえ起きさ
せられていることだ。相手が殺人者と分かったとた
んかなり緊張するが、それでも出来るだけ自然体
で接するようにしているが、どこから見ても相手が
殺人者と分かるような言動もない。内心、本当に
殺人を犯したのだろうかーと思わせるような人も
いた。事実、部屋に入って来た本で叩こうとした
時、その殺人者は「虫にも一寸の魂がある」とその
虫を助けたのだ。前にも書いたが、風呂でもそうだ。
60人余りの入れ墨入りの犯罪者が、浴槽をぐるっ
と取り巻く中に、入れ墨なしの私を入浴させる場所
を確保してくれるなどの親切さが窺えた。犯罪者
集団は普通人だったのである。

塀の中なんて好んで居る場所ではない。病気しても
簡単には薬は出ない。面倒な規律だけが厳しく、自由
が全くない。あるのは、塀の中の態度次第でバッチの
色が変わり、月に一回くらいのビデオ観賞会の出席が
二回に増える程度である。主食は黄ばみかかったご
飯?それに石みたいに固まった肉片か、たまにでる
ラーメンは麺は伸びて、スープは生ぬるい。とても、人
間扱いされていないような食事ばかりだ。ある看守が
いうに、ここにいたら糖尿病患者は完全に治るダイエ
ット食だとか。お米の味を感じるのは正月元日の外か
ら入る弁当のご飯だ。確かに米と感じるし、銀シャリ
と感じられる一年に一回のプレゼントなのである。
とにかく、塀の中は想像以上のきびしさがあるのだ。
こんなところに二度と来るところではないことは一度
経験すれば身に染みてわかる。
ところがである。こんなところに4,5回も志願して入
ってくる老人が多い。娑婆で生活できず小さな罪を
意識して犯して入ってくる。志願者には高齢者がほ
とんどで、刑期を終えて出てきても、仕事もできず
住まいすら危うくなる。こうした老人は塀の中こそ天
国なのである。社会の厳しさに翻弄され塀の中に逃
げ込むといった図式なのである。
政治の貧困が高齢化社会を直撃しているようだ。
リーマンショック以前の兆候があるーなどと、嘯いて
いるような余裕など日本の高齢化社会にはない。
日本の実態を見た福祉社会の確立を急がねばなら
ない。与野党の小競り合いに付き合っているひまなど
ないのだ。
圧巻は入浴だ。50人くらいで入る大風呂である。
風呂は細長い楕円形で、両手を湯面の外に出し
軽く万歳した格好で入る。垢をこすらない、人の
体を触らせないーというところから編み出された
姿勢なのであろう。しかも、石けんは使えるが、
シャワーは8秒間で洗い落とさなければならない。
ワンプッス8秒間だけ水が出る。最も、もう一度
押せば、さらに8秒間出るのだけど、それは許さ
れていない。万一、ツウプッシュするものなら、間
違いなく懲罰行きとなる。
圧巻といったのは、入浴は風呂の壁面を取りまく
ようにして入るが、壁面そのものがタトーの人列
で埋め尽くされる。
私は、なぜかその中心部に席が(場所)とられ、
色のない私の体が起点になる。この入浴風景は
毎回指定席のように繰り返される。
見方によれば、私が紅一点みたいだけど、タトー
人列の中の無色派は見られたものではない。
囚人の迫力は風呂場にあるかに感じられた。
塀の中には、想像もできない規則や光景がある
ものである。
危惧したことが起きた。作業道具の長針を
紛失したのである。場合によっては人でも
殺せるような道具だ。それこそ、班長の絶
体絶命の場面である。見つからなければ、
間違いなく班長が懲罰行きになる。
看守に紛失を報告すると、他から4人の
看守が集められた。
まず、囚人は素っ裸にさせられ、こまかく
調べられた。どこか、隠していないかとい
うことだ。この身体検査がおわると、全員
が広場に出されて、整列させられた。囚人
間のトラブルを耳にしなかったかーなど、
全責任を持つ班長が尋問された。そして
看守5人がかりで、作業台など細かく探し
た。それでも、見つからない。
次は、工場内の什器すべてを外に出し床
から、隅々まで調べた。それでも、長針は
出てこなかった。今度は、班長の私が懲罰
を言い渡されるときとなった。
まさにその時、囚人の一人がモップに絡ま
った長針を見つけ出したのである。その前後
関係はわからないが、間一髪で責任回避
できた。